
偏頗弁済って何?
偏頗弁済とは、全ての借金を返済できない状況で、特定の債権者だけに返済すること
そもそも偏頗とは「偏っている」という意味で、「特定の債権者を優遇して、借金の返済や担保の提供を行う行為」のことを言います(この記事では、偏頗弁済および偏頗的な担保設定行為を総称して、単に偏頗弁済とします)。
今抱えている全ての借金を、特に問題なく返済できる状況であるならば、どの債権者に、どの順番でお金を返しても基本的に問題はありません。
しかし、借金を返済することができず、自己破産をするような状況では話が変わってきます。
ほとんどの債権者は破産手続きの中で、配当という形で借金のごく一部を受け取って満足するしかないのにもかかわらず、一部の債権者(例えば、破産者の友人や親族)がその手続きの外側で借金の返済をしてもらったり、担保を設定してもらったりすることは、他の債権者との関係で不公平であると言えます。
偏頗弁済をするとどうなる?
では、偏頗弁済を行ってしまうとどのような問題があるのでしょうか?
具体的には、大きく4つあります。
- 管財事件になってしまう(自己破産の場合)
- 管財人に支払いが否認される
- 免責不許可事由に該当しうる
- 犯罪となりうる
1.管財事件になってしまう(自己破産の場合)
偏頗弁済を行うと、(額や偏頗弁済の種類による部分もありますが)、原則として破産管財人が選任される管財事件として扱われます。
自己破産には「管財事件」と「同時廃止」の2種類があり、管財事件になると少なくとも20万円の予納金が必要となりますし、手続きの終了(免責許可決定)までも長くなる傾向にあります。
つまり、破産する人にとってはデメリットだらけになってしまいます。
2.管財人に支払いが否認される
相手方において債務者が借金の返済が不可能な状況であることを知っていたか否かにもよりますが、偏頗弁済は管財人による否認権行使の対象となります。
偏頗弁済が否認されれば、債権者が受け取ったお金は破産管財人に返さなければならなくなり、むしろ手間がかかるため債権者に迷惑をかけることになるでしょう。
さらに言えば、破産管財人の立場を明らかにして連絡する必要があるため、債務者が自己破産をしていることはいずれにしても発覚します。
3.免責不許可事由に該当する
破産法252条1項3号は「当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しない」とされています。
簡単に言えば、支払時期が到来していない債務に対する偏頗弁済は自己破産の免責不許可事由に該当し、自己破産をしても借金がゼロにならない可能性があります。
また、個人再生手続きの場合、否認権行使という手続き自体は存在しませんが、破産手続きであったならば偏頗弁済とされていたであろう行為があった場合には、その分を清算価値に上乗せすることが求められることが一般的ですし、その程度が悪質であった場合には、「不当な目的による申立て」として再生手続き開始の申立て自体が棄却されることもあります(民事再生法25条4号)。
4.犯罪となる
破産法266条には「特定の債権者に対する担保供与等の罪」という罪が定められていて、これは偏頗弁済を罰するための規定です。
ただし、偏頗弁済の全てが犯罪となりうるわけではなく、「当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的」があること及び、「担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないもの」に対することが要件となります。
偏頗弁済はバレてしまうのか?
偏頗弁済がバレてしまうことはあるのでしょうか?
例えば、銀行振込をすると通帳に記録が残ってしまうので、偏頗弁済はバレてしまいます。引き落としの場合でも、滞納分が支払われていると判断されるため、家賃が2ヵ月分引き落とされている場合などは注意が必要です。
振込だけではなく、預金口座から引き出した現金の使い道をきちんと説明できていなければ偏頗弁済を疑われてしまう可能性もあります。
その他、自己破産において破産管財人が選任された場合は、破産申請中の郵便物が全て破産管財人の元に届くため、債権者からの領収書等を通じて発覚することもありえます。
税金の支払いや家賃、携帯電話の支払いは偏頗弁済の対象?
税金の支払いや家賃、携帯電話の支払いは、偏頗弁済の対象になるのでしょうか。
どういう支払いが偏頗弁済になるのかについてご説明します。
税金や生活費の支払いは偏頗弁済にならない
税金や生活費の支払いは、偏頗弁済になりません。
税金については破産法163条3項が、税金の支払いは否認権行使の対象とならないことをはっきりと定めています。
偏頗弁済の判断が難しいのが家賃や携帯代、水道・電気代などです。
否認について定めた破産法162条1項1号は、否認の対象について、「既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る」としており、発生とともに直ちに消滅する、いわゆる同時交換的行為は対象から除いています。
そのため、当月分の家賃や携帯代、水道光熱費の支払いは偏頗弁済にはなりません。
滞納分を支払うと偏頗弁済になるかも
これに対して、滞納分の家賃や携帯代、水道光熱費については、偏頗弁済と判断される可能性があります。
というのも、これらの費用も滞納した場合には、その支払いが同時交換的であるとはいえないためです。
ただし、条文上必ずしも明確ではないものの、一般に偏頗行為否認のためには、当該行為が不当なものであることが要求されると考えられており、滞納家賃の支払いなどは1、2ヵ月程度で、額がそれほどでもなければ不当とはされづらく、実務的にも否認権行使がなされることは稀です。
とはいうものの、偏頗弁済にあたるかどうか最終的に判断を下すのは破産管財人や裁判所であり、滞納家賃等の支払いを行うにあたっては、自己破産を行う場合は依頼した弁護士と偏頗弁済についてしっかりと確認しておくことをおすすめします。
いつの支払いから偏頗弁済に該当するの?
偏頗弁済の定義上も、返済不能(支払不能)に陥った後からの支払いが偏頗弁済となります。
ただし、いつから支払不能に陥ったかというのは必ずしも明らかではないので、弁護士の受任通知等の支払いの停止があった後は支払不能であったと推定する規定が設けられています。
個人の自己破産においては、一般的に弁護士に依頼して受任通知を発送する以前の支払いについてはそれほど厳しく追及されませんが、依頼する直前に多額の返済を行うような場合には必ずしもその限りでない場合があります。
まとめ
今回は「偏頗弁済」について解説しました。
偏頗弁済とは、特定の債権者を優遇して返済や担保の提供を行うことです。
返済不能に陥った場合は、債権者に平等に返済していかなければならないため、基本的に偏頗弁済は認められていません。
手続きが複雑になったり、免責不許可事由に該当して破産できなくなったりしないように、偏頗弁済と受け取られかねない行為は避けるべきです。
犯罪行為になることもあるため、わからないことがあれば当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。